秋は人馬ともに肥ゆるのが正しい生命体の姿だと思っているが

 

秋は人馬ともに、まるまると肥ゆるのが正しい生命体の姿だと思っているが、肥ゆるといっても人間の場合、ただうまいものをたらふく食べて贅肉をつけるだけでは芸がない。

 

紅葉で燃えるように染まる美しい山々をみたり、お腹に卵をたっぷり詰め込んだ鮭が泳いでいるはずの大海原を眺めたりしながら、痩せこけた心をふっくらとさせる季節にしたい。心が荒ぶとロクなことはないし、来たる泣きの冬にも万全の体勢を整えなければ。

 

アラフィフ(47歳以上53歳以下)馬ガール3人。

たとえどんなに肥えても、すでに賞味期限が切れているという色気のない安堵の気持ちを抱きながら、苫小牧市樽前にあるホースセラピー・ペガサスさんを目指した。

 

高速道路を苫小牧西インターで降りると、2014年最優秀ダートホース、ホッコータルマエの馬名の由来でもある樽前山が見えてきた。

山といっても、黒々とした巨大な砂山のようだ。こんな不思議な姿の山は他にあるのだろうか。

「名は体を表す」

木のない山肌がむき出しの活火山を見ていると、タルマエがダート王になったのは当然の事のように思った。

 

「菊花賞はどうする?」「どうもこうも」「またしてもよくわからん」などと言っているうちに、まったく何もない場所を指し示す怪しいナビに誘導されて無事到着。樽前の奥地には絶対にいないと思われる、何もかもが洗練された女性が出迎えてくれた。

 

林弥生さん。札幌市出身で元ファッションモデルという華やかな経歴の持ち主。当然のことだがとても美しい方で、しばし見惚れる期限切れの我ら。

それぞれの生き方、経歴、姿かたちは天と地ほど違えども、馬が好き!というシンプルな共通点が嬉しいご縁となった。

 

ホースセラピー・ペガサスさんの敷地は、ほどよい太さに育った白樺の木が牧場の風景を彩るアクセントになっており、あたたかな陽だまりの中で、ポニーと道産子の交配種であるロイドくんがうたた寝をしている。少し離れた野菊の咲く草むらで、ポニーのマナちゃんとハウルくんが、思い思いの時間を過ごしていた。

 

林さんは、日本障害者乗馬協会のライディングマネジャーの資格があり、障がい者乗馬はもちろん、健常者や観光乗馬など幅広く体験できるように準備をしているそうだ。この日は、林さんのご厚意で、長年の激務で手足を故障し、休業を余儀なくされている馬ガール1名の引き馬をしてくれることになった。

 

エスコートはロイドくん。馬装は鞍もなく、首に1本ロープをかけただけで窮屈なハミはない。馬もひとも、ゆっくりとリラックスした状態で、林さんと一緒に木立ちの中を歩いてゆく。たった今出会ったばかりの人馬は、1完歩ごと白樺林のやさしい風景に溶け込んでいった。

 

ホースセラピーの定義は様々あって、特に、障がい者乗馬のイメージが先行するけれど、決してそれだけに限らず、企業戦士のビジネスマン、人生に疲れ切って心が病んでいるひと、事情があってモヤモヤが晴れないひとなど、生きているだけで起こりうる、すべてのストレスに効果があると私は考えている。

 

学校や会社帰りにひょいと馬に乗って、1日の疲れをリセットするなんてことがあったらどんなに素晴らしい放課後かしら。

引き馬をされてフワ~っとしている馬ガールをみていると、そんな思いがめぐってきた。

 

首からカメラを提げた馬ガールが「近所の牧場から牛が消え、ポニーが2頭ポツンといたよ」という。なぬ?そこは札幌でも老舗の乳牛牧場で、地域の文化財にもなっているところ。

「牛をやめちゃって何にも用事がないのなら、私らにさせてくれないだろうかね」

「やってみたいね」

「ポニーの飼い葉は干し草だけでいいんだよね」

「あれだけの広大な敷地。干し草も作れるなぁ」

「近いから通えるね」

「通えるなぁ」…

 

ポニーのマナちゃんとハウルくんをなでくりまわしながら、馬と暮らす豊かな毎日があったら、どんなに素敵だろうと想像するだけで幸せな心持になった。

 

林さんは毎日、札幌から樽前に通っているという。高速道路を使っても40分はかかるだろう。これからのことを考え、ペガサスさんの移転も未来予想図の中に入っているのだと教えてくれた。

 

華やかな世界を極めた美しい女性がひとり。協力してくれるボランティアさんがいたとしても、日々のご苦労は少なくない。馬ガールは毎度『馬と暮らす』想像の域を越えずにニヤニヤしてばかりで申し訳ないような気持ちになるが、私たちはこれからも、ペガサスさんを応援したい。オケラ街道にペガサスさんがあったらどんなにいいだろうか。

 

「馬とのふれあいって、どうしてこんなに癒されるのかな」

「なぜか懐かしい感じさえるすね」

「何とも言えない不思議な安心感だなぁ」

 

遠い昔、北海道開拓時代よりもずっと前。

ご先祖さまたちが馬と暮らして生き抜いてきた記憶が、私たちのDNAの中にちゃんと残っている気がした。