ヤマニンキングリー

 

毎日のように空から何かしらが降ってくる季節になった。
昨日の早朝、確か5時半くらい。ひとと同じように寒い朝はまだ寝ていたい犬たちを起こして、庭で用を足すように扉を開けると、小さな、ほんの小さな雪の粒が、朝日を浴びながらハラハラと落ちてきていた。
おそらく冷たい雨が、乾いた空気に触れて粒雪になったのだろう。
寒さのため、犬たちは早々に家の中に戻り、それぞれの毛布の中へダイブしていたが、私は何だか綺麗なものでも見るような目で、いつまでも窓の外にいた。
「…寒い!」
雪粒が消えると、いきなりの現実。こんなにたっぷりと脂肪を蓄えているのに、なんてこった。原因はわからないが、一時この私でも痩せていた年があった。その冬の寒いことといったらない。骨の髄にしみるというか、風があたるだけでキーンと節々が痛くなり、何をいくら着こんでも、寒いものは寒かった。
今ではそんな心配はいらないくらい脂肪がつき、体重が増えて、膝がガクガクしだしている。ちょうどいいのは何キロなのかな。

少し調べると、年齢に応じて、理想体重は違ってくるらしい。私の場合、171㎝の身長なので64kgが適当という。チッ!思いっきり今現在の体重じゃないか。時々膝がおかしくなるのは、単なる運動不足ということか。ちなみに30代では59kgって、どっちにしても一般女性の体重からは程遠い結果に(涙)。

先日、ホーストラスト北海道に、2009年の札幌記念優勝馬ヤマニンキングリー(父アグネスデジタル)が入厩したという知らせが入った。

その年の札幌記念は、3歳のブエナビスタが凱旋門賞に行く前哨戦として札幌記念が選ばれ、1番人気で出走。改装前の札幌競馬場はものすごい数のファンでごった返し、誰もがブエナの勝利を確信して歓喜の声を出す準備に余念がなかったのだが、7番人気のヤマニンキングリーが先に抜け出し、ブエナの猛追を振り切って優勝。
私はひと声もあげることができずに完全オケラ。トボトボと退散したことを憶えている。

ヤマニンキングリーはその後、中央から川崎競馬場に移動して、2014年11月21日のレース中に脚のケガを発症して引退、乗馬に。ちょうど1年前である。乗馬になる馬の多くは競走馬なのだが、ケガをして引退した場合、特に脚になると、ひとを乗せることができないため、乗馬になるのも難しいことがある。キングリーのケガは重症だった。

サラブレッドは、速く走らせるためにひとの手が加わり、改良されてきた歴史を持つ生き物で、極端に脚が細くできている。
当然、ケガのほとんどは脚に起きてしまい、命を落とすことも少なくない。
競馬で勝てなくても、気持ちが穏やかで脚が丈夫であれば、再就職先として乗馬クラブで働くことができるけれど、そうじゃない馬の場合は生きる道が急に「行き止まり」に…。

乗馬になることができなかったキングリーが、岩内の余生・功労馬牧場であるホーストラスト北海道に移動できたのは、それまで彼を繋養していた乗馬クラブが最後にできる優しさの表れであり、「生きてほしい」と願っての事だろう。
余生牧場に辿りつける馬は、驚くほど少ないのが現状で、余生牧場自体もまだまだ足りてはいない。

明るい栗毛が美しく、かわいい瞳をくるくるとさせたキングリーの写真が届いた。
少し痩せているが、キングリーの生まれ育った牧場の方々も無事の帰郷を喜び、これからの長い余生に向けて見守っていくと聞いた。

生産牧場は、ただひたすらに、仔馬を作って世に出しているわけではない。
自分たちが育てた馬のことを我が子のように慈しみ、どうしているかと心を寄せ、できるだけ元気に生きていてほしいと深く願っている。そのことが、部外者である私にも熱く伝わり、寒空にも負けない温かな風が吹くのを感じた。

キングリーは幸せな馬だった。

トラストには、同じ栗毛のエイシンキャメロン、ウインギガシャトルなどが余生を暮らしており、とりわけギガシャトルはまじめで賢く、誰よりも優しい馬なので、津波に流されて一命を取り留めたアドマイヤチャンプが入厩した時も、ひとりでぽつんとしていたチャンプにいち早く寄り添っていた。

キングリーは脚の状態をみながらの管理になるというが、ギガシャトルがいることで、私の気持ちはかなり穏やかなところまで来ている。
馬たちがキングリーを見て、馬にしかわからない心のコンタクトをとりながら、友だちになっていくのだろう。
「脚の方どうだ?気をつけて歩きなよ」
きっとギガシャトルもチャンプも、親分肌のキャメロンさえも、キングリーに気を配って一緒に歩いてくれるはずだ。

もう少しで雪が降る。ふんわりと降り積もった雪は、馬たちの楽しみのひとつ。思い思いに転がってみたり、いい年をして仔馬のように駆けまわってみたりと、雪は馬を元気にしてくれる。新雪のやわらかさも脚にも悪くないだろう。

12月のカレンダーにマルをつけた。
キングリーに会いに行く日を指折り数えている。